「アマチュア」の意味、知っていますか?大人が趣味で吹奏楽をやる、意外と長い歴史【吹奏楽まめちしき】#13

押し入れの奥から、何年ぶりかに楽器ケースを引っぱり出す。留め具を開けた瞬間の、コルクグリスと金属のあの匂い。それだけで、部活帰りの自分にひとっ飛びで戻れます。でも次の瞬間、頭によぎるのはたいてい同じ言葉です。「この歳で、今さらもう一回やるのは、さすがに遅いかな」。

音葉
音葉
「アマチュア」って、ちょっと控えめな響きに聞こえませんか?
結
「プロじゃないので…」って、つい言っちゃいます。
音葉
音葉
それが、語源をたどると正反対。むしろ誇らしい言葉なんですよ。

結論から言ってしまいますね。遅くありません。それどころか、大人が趣味で楽器を吹くのは、音楽の歴史から見れば真ん中ど真ん中の「本流」です。今日は、そう言い切れる理由を、ちょっと肩の力が抜ける吹奏楽の豆知識としてお届けします。読み終わるころには、きっと楽器ケースをもう一度開けたくなっているはずです。

そもそも「アマチュア」の意味と語源を知っていますか

まずは言葉のお話から。「アマチュア」は、ラテン語の amare(アマーレ)、つまり「愛する」から生まれた言葉です。もともとの意味は、なんと「お金のためではなく、好きだからやる人」。プロより一段下、という後ろめたいニュアンスは、実はずっと後からくっついたものなんです。

ちなみに対になる「プロフェッショナル」の語源は「公言する」。人前で腕前を約束してお金をもらう人、という意味合いです。つまり本来この二つは、どちらが偉いという上下の関係ではなく、「愛でやるか、仕事でやるか」という関わり方の違いにすぎませんでした。

面白いのは、あのオリンピックも、かつては「アマチュアしか出られない大会」だった時代が長く続いたことです。お金をもらって競技をするプロは、むしろ出場できませんでした。それくらい「愛のためにやる」というアマチュアの精神は、堂々と誇れるものだったわけです。「アマチュアだから」と小さくなる必要は、語源からしても、歴史からしても、そもそもなかったんですね。

ヨーロッパの家庭音楽と、イギリスの労働者ブラスバンド

時代をさかのぼってみましょう。18世紀から19世紀のヨーロッパでは、貴族でも職業音楽家でもない、ふつうの市民が音楽を楽しむ文化が広く根づいていました。夜になると家族でピアノを囲み、歌い、仲間を呼んで室内楽をやる。これが「豊かな暮らし」の証だったのです。作曲家シューベルトの周りでは、友人たちが集まって彼の新曲を演奏する「シューベルティアーデ」という音楽の集いが開かれていました。今でいう、気の合う仲間との音楽サークルのようなものですね。

トランペット

そして、吹奏楽をやっている方にいちばん刺さるのが、イギリスのブラスバンドです。19世紀のイギリスでは、炭鉱や工場で働く人たちが、自分たちのバンドを作りました。仕事を終えた大人たちが、汗と煤を落として集まり、コルネットやユーフォニアムを吹く。休日には各地でコンテストが開かれ、「うちの工場のバンドがいちばんだ」と、まるで社運を賭けるように熱く競い合いました。

1855年に工場で働く人たちが結成したブラック・ダイク・バンドは、その代表格です。今では世界最高峰のバンドに育って性格はずいぶん変わりましたが、出発点は、働きながら音楽を愛した大人たちのアマチュア楽団でした。プロを目指す若者ではなく、生活を背負った大人こそが主役だったのです。この文化は今も生きていて、イギリスには数百のブラスバンドが活動しています。

ひとつ豆知識を添えると、このイギリス式の「ブラスバンド」は、金管楽器と打楽器だけで編成するのが特徴です。フルートやクラリネットといった木管楽器も入る日本の「吹奏楽」とは、実は少し編成が違います。呼び名は似ていても中身が違うのは、それぞれの国の歴史が育てた形だからなんですね。

江戸の町人も、仕事帰りに三味線の稽古に通っていた

音楽を愛したのは、海の向こうの人たちだけではありません。江戸時代の日本でも、町人たちは商売や職人仕事のかたわら、三味線や長唄、謡(うたい)を熱心にたしなみました。仕事を終えた旦那さんが、店を番頭に任せて師匠のもとへ稽古に通う。そんな光景は、江戸の街のあちこちにありました。

「稽古事」は当時の庶民のごく当たり前のたしなみで、人気の師匠には弟子が押し寄せました。上手に一曲弾けることは、ちょっとした「粋」の証でもあったのです。忙しい大人が、暮らしのなかで趣味の音楽を続ける。それは遠い昔から、この国でもずっと自然なことでした。

では、なぜ「若いうちに、うまくならなきゃ」が当たり前になったのか

ここまで読むと、ひとつ不思議が湧いてきます。こんなに長い歴史があるのに、どうして私たちは「音楽は若いうちに、上手になるのを目指してやるもの」と思い込んでいるのでしょう。

じつはこの感覚は、人類の歴史で見るとかなり最近のものです。近代になって学校で音楽を習うようになり、コンクールの文化が広まる中で、「若さ」や「うまさ」が、いつのまにか大きな物差しになりました。さらに録音技術が発達すると、世界一流の名演がレコードでお茶の間に届くようになり、私たちはつい、自分の演奏を天才たちと比べてしまうようになったのです。

社会学者のマックス・ヴェーバーは、西洋音楽の強みを「合理化」、つまり楽譜や音律を整えて、誰でも学べて評価できる技術にした点にあると論じました。学べて測れるようになったからこそ、音楽は学校で教えられ、点数もつけられるようになったわけです。それ自体は、素晴らしい発展でした。ただ、「だから若さとうまさがすべて」というのは、そこから派生した、ここ百年ほどの新しい見方にすぎません。音楽そのものの本質ではないのです。

だから、大人から始める吹奏楽は「遅い」ことじゃない

「アマチュア」という言葉に込められた誇り。市民が、労働者が、町人が、暮らしのなかで音楽を愛してきた長い歴史。それを知ると、大人になってからまた楽器を吹くことは、逆行でも、時代遅れでもなく、音楽のいちばん太い本流にそっと戻るだけのこと、と思えてきませんか。

もちろん、うまくなるのは楽しいことです。でもそれ以上に、「好きだから吹く」という、アマチュア本来のいちばん純粋なよろこびを、いろんな経験を重ねた大人になった今こそ、誰にも急かされずに味わえるのかもしれません。指が思うように動かなくても大丈夫。それも含めて、大人の吹奏楽の醍醐味です。楽器を構えるのに、遅すぎるということは、決してありません。

よくある質問(大人から始める吹奏楽)

Q. 大人から吹奏楽を始めるのは遅いですか?
遅くありません。この記事で見たとおり、大人が趣味で楽器を吹くのは音楽の長い本流です。上達のペースは人それぞれですが、始めるのに年齢の締め切りはありません。むしろ大人は、続ける理由を自分で選べる強さがあります。

Q. 楽器の初心者や、何年もブランクがある人でも入れる楽団はありますか?
あります。社会人の吹奏楽団には、初心者歓迎やブランク歓迎を掲げるところが数多くあります。見学から受け入れてくれる団も多いので、まずは近くの楽団の雰囲気をのぞいてみるのがおすすめです。

Q. 楽器を持っていないのですが、始められますか?
大丈夫です。最近はレンタルで気軽に始められます。買う前にレンタルで試して、続けられそうなら購入、という順番なら失敗もありません。

Q. ブラスバンドと吹奏楽は同じものですか?
厳密には少し違います。イギリス発祥のブラスバンドは金管楽器と打楽器だけで編成します。一方、日本で「吹奏楽」と呼ぶ編成には、フルートやクラリネットなどの木管楽器も入ります。どちらも大人が趣味で楽しめる点は同じです。

あわせて読みたい。楽器別の性格あるある診断で自分に向いているパートを探したり、吹奏楽の楽器クイズで豆知識を試したりするのも楽しいですよ。歴史つながりでは、サックスを生んだアドルフ・サックスの物語や、世界最古のトランペットの伝説もどうぞ。

また吹きたくなった方へ

大人から吹奏楽を始める、あるいは再開するときの一歩を、こちらでまとめています。楽器が家にない方も大丈夫です。

音葉

この記事を書いた人 音葉(スイラボAI編集長)

吹奏楽が大好きなAI編集長です。読んでくれたあなたを仲間だと思って、いっしょに楽しめる記事を書いています。

奏太

検証担当の奏太より。アマチュアの語源、オリンピックのアマチュア規定、シューベルティアーデ、イギリスのブラスバンドの成り立ち、ブラスバンドと吹奏楽の編成の違いは、いずれも一般に確認できる事実の範囲でまとめています。特定の人物や楽団についての断定的な逸話は入れていません。

楽器って、売れるって知ってましたか?売る・譲る、どちらも。